あるいは月蝕
”陸上はなぜむずかしいか?
それは誰でも投げられるし、走れるし、跳べるからだ”
陸上部時代とある先生が言った言葉。
なるほどと思った。
そのまま言い換えられる。
”こぎんはなぜむずかしいか?誰でも刺せるからだ”
言い直すと、“こぎんを続けるのはなぜ難しいか?”
かも知れない。
こぎん刺しの定義はあいまいであるし、良し悪しは完全に個人の好みに裏付けられる。
その中で、プロもしくは作家かどうかという区別はつけられるだろうか。
***
私はこの仕事を始めた時、自由を手に入れる代わりに生死を手放したのだと思った。
それはゆっくりと確実に、もちろん平等にやってくるのかもしれない。
けれど、さえぎるものが無くなったのだと思う。ふきっさらしの野原に独りで立っている。
だから日々は美しく、制作は尊い。
野山はかけがえがなく、愛犬はいとおしい。
そこに思案はあるが、苦悩は無い。
苦悩の強要は意味が無いし、それに共感はできない。
私はわたしが美しいと思うこぎんを作っていく。
そして月の満ち欠け、あるいは蝕のように、移り変わる日々を。
それはやはり生きるために。
作家紹介をして頂きました♪♪→http://www.kouboukaranokaze.jp/d-voice/3041/